今月のプレスセミナーから

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双極性障害に適応のある薬剤

「双極性障害の躁・うつ両方への適応を持つ最初で唯一の薬剤」として、ジプレキサ((オランザピン)についてのプレスセミナーが3月14日東京で開催された(後援:日本イーライリリー)。

講演内容は、各治験における他剤との比較などを中心に述べたイーライリリー開発医師によるものと、帝京大学精神科の張氏による双極性障害の解説ほかである。

双極性障害とは、一般には躁うつ病として知られている躁状態とうつ状態を繰り返すものである。
うつは自殺念慮・企図などで大いに憂うべき症状であるが、講演を聴くと躁病の症状が及ぼす家族をはじめ周囲の人間への迷惑度ではその比ではない。
どちらかというとうつは自分に閉じこもるものであるので、周囲は心配しつつ見守ることが肝要であるが、躁の場合はイライラ状態を見せたりパラノイア状態になったり、金銭的にも信じられないような浪費したりして関係者に実質的に大きな迷惑をかけるのである。

今回、この双極性障害に適応をもつ薬剤としてのジプレキサが出てきたが、元々この薬剤は統合失調症に適応があったのもので、適応拡大である。

統合失調症の薬剤であった本薬剤は、2010年に「躁状態の改善」で適応を取り、さらに本2012年に「うつ状態の改善」で承認されたのである。

講演は興味深いものであったが、疑問は残った。普通に考えれば、うつ状態・躁状態が交互に出てくる人間を一剤でその症状を抑えるというのは不可能に思えるからである。なぜなら、躁状態のときに抑えるにはある意味「うつ」に近くせねばならず、逆にうつ状態を抑えるには「躁」にせねばならないと思うからである。

講演の最後に患者のビデオ出演があり「いつ症状が出るかわからない。突然出現する」と言っていたが、では「いま躁状態だ」と投薬をしようとした直前に「うつ状態」に切り替わっていたらどうなのだろう。「過鎮静」になってしまうのではないか。

逆の場合であったらどうだろう、さらに恐ろしいことではないか。
用法について、うつ症状の改善には就寝前投与とあるが、躁症状については記載がない。
また、躁状態の改善とうつ状態の改善では、初回用量が異なる。

結局この薬剤の効果は「鎮静作用」ということなのであろうか。

近々アリピプラゾール(エビリファイ)が、同じ双極性障害(躁症状)に適応のある薬剤として出てくるが、そのときまでにはこの疑問を解決しておきたいと思う。

  • 2012年03月16日(金)15時39分

過敏性腸症候群の実態

「過敏性腸症候群(IBS)患者の実態と意識」と題されたプレスセミナーが、兵庫医科大学内科学教授 三輪洋人氏の講演で9月15日に開催された(後援:アステラス社)。

過敏性腸症候群は、以前は過敏性大腸症候群と「大腸」が入っていたが小腸にも関係があるとして、現在の名前になった。英語はもともとIrritable Bowel Syndromeと「腸」であったので、その表現に変更はない。

ちなみに英語で大腸は「intestinum crassumあるいはlarge intestine」小腸は「intestinum tenueあるいはsmall intestine」である。

講演ではIBS該当者1,300余名を対象に実施した調査結果をもとに、IBSの発症契機はいつなのか、何が引き金になって発症するのか、どのような体質・性格の持ち主がIBSになりやすいのかなどを述べた。それによると発症契機は精神的なことがほとんどである。

診断基準には世界的にROME分類が用いられ、現在は2006年に改訂されたバージョンIIIである。それによると「過去3ヵ月間、月に3日以上にわたって腹痛や腹部不快感が繰り返し起こり、以下の2項目以上がある」となっていて、その項目は①排便によって症状が軽減する、②発症時に排便頻度の変化がある、③発症時に便形状(外観)の変化がある、の3項目である。

三輪氏は、この説明に便の種類(形状)を示したスライドを表示し、タイプ1,2は便秘型、タイプ6,7は下痢型と、理解を助ける解説を行った。

また、患者は平均して10年間症状とつきあっていると、軽症未満から重症まで分類してグラフ化して示したが、この分類基準について質問したところ「患者の印象による」というものであったのは、残念であったが仕方のないことかもしれない。

発症契機が精神的なものであるところから、治療についても確定している方法はなく、抗不安薬や消化管機能調整薬が処方されているのが実態のようである。その中でも三輪氏は、患者は健常人と比較して食後のセロトニン濃度が高値であるところから、セロトニン5-HT3受容体拮抗薬が下痢型IBSに対して有効であるという論文を紹介し、主催社アステラスのイリボーの効果を語った。

今秋の調査結果が20歳から79歳までの男性に限っていることについて、「性差があるのか」という記者の質問に対しIBSに性差はない、あえていうなら男性は下痢型、女性は便秘型が多いということで、男性に限っての集計についての明確な回答はなかった。
女性は恥ずかしさから集計できるほどの回答数がなかったのかと思ったが、これについては後日、事務局から「IBS患者へのイリボー錠の適応は、現状、男性下痢型IBSのみで、女性は治験をすすめているところです」と通知が来たので納得した。

いずれにしても病状が重症を感じさせないためか、患者も施療者側も認識が乏しいというのが実感である。質疑応答で「ストッパー」という薬剤はどうかとの質問に「一時的な対処」という回答であったが、患者にはその場しのぎでも有効であれば、それは良い薬剤であろう。

この薬剤の評価がどうなっているかについても含めて、作成中というガイドラインの早めの刊行に期待したい。

  • 2011年09月21日(水)17時37分

塩野義製薬と英国との協定覚書締結式

10月9日 英国大使館において標題の覚書が締結された。
 内容については事前に知らされることなく、塩野義の広報に問い合わせても「式が大事」という雰囲気で、当日にプレスリリースをするからという回答であった。
 したがってとくに準備もなく出かけたが、結論から言うと「調印式を取材してください」であった。覚書合意内容は「創薬の種を探す」「人材交流をする」である。このテーマであれば、目新しさはどこにもない。相手が英国国家であるというだけである。
 質疑応答においても、締結内容の詳細については明らかにされなかった。どの分野を中心に創薬を考えているのか、資金提供はどの程度か、などなど記事に必要な数値は一切答えがなかった。そもそも契約でありながら、その有効期限がないとか付帯条件(見直しの条件など)を述べないということは、わざわざ記者を集めての会見としていかがなものか。
 契約内容の詳細は答えられないにしても、記事を書かせるために記者を集めたのであれば、ある程度の数値は発表を準備すべきであろう。
 英国国家と契約した日本の製薬会社は初めてだそうだが、内容が詳らかにされないのであれば、話題性にも乏しい。
 第一にこの協定話がどちらから仕掛けたものかの説明もなかった。お互いにメリットがなければ契約はなされないのが常識である。
英国側からすれば企業からの資金提供で自国の研究開発費用に宛てられるメリットは分かるが、営利を目的とする企業からすれば期限を設けない資金提供など通常考えられない。さらに前者にしても、研究費用を塩野義が提供することに対しての塩野義への優先権がどの程度か不明である。
 欧州に弱い自社であるからと社長の手代木氏は語っていたが、先年巷で話題になっていたフランスの製薬会社との合併話は立ち消えになったのだろうか。
 表面的には塩野義が英国に資本提供をする話であるが、うがった見方をすれば、英国がフランス資本を牽制する意味で、契約をもちかけたと見えなくもない。

 いずれにしてもこの記者会見は「英国大使館で」「英国国家と契約を結んだ最初の日本の製薬会社」という以外、内容に乏しかったと言わざるを得ない。

  • 2009年10月14日(水)11時56分

振戦だけではないパーキンソン病

「パーキンソン病患者・介護者の実態調査発表」と題したセミナーが、順天堂大学神経学講座 服部信孝氏と患者2名によって、東京経団連会館にて7月24日開催された(後援:ベーリンガーインゲルハイム)。

パーキンソン病といえばマイケルJフォックスや、モハメドアリ、日本では三浦綾子、などが有名だが、実際の患者数は日本で約14万人というから、病名の浸透度に比べると意外と患者数は少ないような印象を持つ。
臨床症状として「振戦」「固縮」「無動」「姿勢反射障害」を持つ進行性の変性疾患である。変性疾患は「治らない病気」とされる。50歳以下には発現率が低く60歳以上で急激に増加するとされるが、発症年齢については疑問に思う。

当日パネリストとして参加の患者2人は、お互いの症状が異なっていた。一人は手の震え、他方は頸の傾斜である。服部氏によれば外に出る症状は個人差があるとのことであった。前者はいかにもの症状であったが、後者はこの場でなければ病名について想像は及ばなかった。患者両氏はパーキンソン病友の会の会長と理事という立場で明るく話をしてくれたが、それぞれ11年、24年という病歴を聞くと本人はもとより介護者の苦労もいかばかりかと思われた。病状に対する苦闘もあっただろうが、加えてスティグマとの戦いもあったであろう。

病理所見では脳の黒質部分が変性し黒質が脱落しており、黒質のドパミン神経細胞が減少しているのが見える。運動機能の障害という点から見るとドパミン補完で改善は見込めるはずであるが、睡眠障害や便秘のような非運動症状もパーキンソンには含まれるので始末に終えない。
しかし、パーキンソン病の定義は何かというと明確ではない。
前駆症状として「嗅覚異常」「抑うつ」「便秘」「REM睡眠障害」の4つがそれであると服部氏の資料にあったが、ほとんど自覚症状である。患者が確定診断を得るまでに何科を受診したかというと、内科、整形外科が1位と2位で、3位、4位が神経内科・脳外科である。
「振戦」「固縮」は自他共に明確に分かる症状であるから、神経内科あたりの受診が1位であってもおかしくはないと思われるが、どうしたことであろう。
神経内科医師は全国で約8,000人である。専門医師が全国に散らばっていれば患者数はもっと増えるのかもしれない。

患者の症状で「日中に幻覚がある」という項目があったが、これは「幻視」であって「幻聴は無い」そうである。幻聴は気のせいで済ませられても、幻視は事故につながりかねないから恐ろしいことである。


パーキンソン病に限らず「これは治らない病気」と定義する疾患があり、講演などでも聞くことがある。医師の立場からは普通の表現かもしれないが、できるなら「残念ながら現在では」というのを必ずつけて欲しいと思う。

  • 2008年08月01日(金)10時24分

アスピリンは血栓予防できない?!

静脈血栓塞栓症(VTE)の予防についてのプレスセミナーが2月28日開催された(ファーストスクエアウエストタワー:東京。主催:サノフィ・アベンティス株式会社)。

演者は米国で整形外科・スポーツ医学の指導医であるFred Cushner氏と、大阪厚生年金病院整形外科の冨士武史氏。

静脈血栓症には表在静脈系と深部静脈系の2種類があるが、問題となるのは後者である。この深部静脈血栓症(DVT)には、重篤な合併症として肺血栓塞栓症(PTE)がある。PTEは90%以上が下肢や骨盤内で形成された血栓が遊離して生じるとされる。
とくに股関節全置換術、膝関節全置換術、股関節骨折手術後に、予防措置をとらなかった場合、DVTの発生が27~50%に及ぶとされる。PTEの自覚症状は呼吸困難・胸痛が最も多く死亡率も高い。DVTの診断は超音波画像診断法がゴールドスタンダードになっている。また、予防については、抗凝固薬である低用量未分画ヘパリンが長年使用されていたが、これについては日本人で静脈血栓塞栓症予防に対する有効性・安全性を確認した試験はなく、出血リスクも高く、半減期が1時間と短いなどの問題点がある。対して米国のガイドラインでは推奨されているのが低分子量ヘパリン投与である。低分子量ヘパリンは半減期も長く(17時間)、血中濃度の予測性も良い。この低分子量ヘパリンがこのほど日本で製造承認されたというのが、セミナー主催の主旨である。

冨士氏の講演によれば、人工関節全置換術をすると約70%にDVTが生じるという。また、血栓は術後5日目までに発症しやすいので、その検査日も注意を要するし、術後の患者を立ち上がらせるのにも細心の注意が必要であると説いた。

講演で驚いたのはCushner氏の「アスピリンを血栓溶解薬として推奨しない」という米国ガイドラインの記述についてである。
つまり「第7回ACCPによる勧告」として「いずれの患者群についても、静脈血栓塞栓症に対する予防法としてのアスピリンの単独使用は推奨しない(Grade 1A)」というのである。

周知のようにアスピリンは、心筋梗塞、脳梗塞などの血栓・塞栓形成を抑制する作用があり、脳梗塞の急性期治療においての推奨度はAである。(脳卒中治療ガイドライン2004)。非心原性脳梗塞再発予防での最も有効な抗血小板療法としても推奨度Aである。
静脈血栓塞栓症に対してと記されてはいるが、アスピリンを推奨しないというのは驚きであった。
冨士氏の解説にあった「股関節と膝関節の血栓は異なる」というようなことと関係するのであろうか。

講演は分かりやすい内容であったが、同時通訳の日本語が何かを読んでいるような非常な早口であったのと、主催社都合で質疑応答が2問で打ち切られたのは、非常に残念であった。

  • 2008年03月06日(木)16時46分

知識よりも意識改革の問題では

「教育・医療業界初!中高生向け精神疾患教育プログラム」と副題をつけて、『こころの病気を学ぶ授業』の普及を開始したという記者発表会が2月6日丸ビル(東京)で開催された(主催:日本イーライリリー株式会社)。

精神疾患については何かと偏見が多いので、その正しい病態を理解するために中高生のころから授業に取り入れようとする主旨である。

最初に『なぜ、いま疾病理解プログラムなのか』と題して、東北福祉大学教授の佐藤光源氏が、精神科医療の現状、とくに学校精神保健について語った。統合失調症は20歳代に多く発症するというABC研究データ(WHO Health Report 2001掲載のAge, Beginning and Course study of schizopherenia)や、公立中学校で平均24.2%のうつ病患者がいるという2007年のデータを示し(n=600,調査方法の明記はナシ)、若いうちからその疾患についての教育が必要であると述べた。以前は保健体育で「精神の障害」の項目があり学習指導要領で教えるべきであったものが、1977年に項目が削除された結果、基本的な「うつ病」「統合失調症」について教師が知らなくて済んでいると嘆いた。

次いで、『家族の立場から、学校教育での疾患教育の必要性』と題して、全国精神保健福祉連合会の真壁博美氏が、自身の娘が14歳で発病した後(現在34歳)、学校・地域での偏見にいかに苦しんだかという話を淡々と語った。大仰でないだけに切実さも感じ取れたが、学校生活での差別実例があればより今回の主旨に沿っていたと思う。

最後に、今回のテーマでもあった『こころの病気を学ぶ授業』プログラムについて、実際の授業風景を映像で紹介しながらの解説が、千葉大学准教授の藤川大祐氏により行われた。
その情景は普通の授業と変わりないと思われたが「精神科」関連の授業が行われていない現状では、生徒にとって内容は新しいものであったろう。ただ、氏も強調していたが「知的好奇心に訴える授業ではなく、子どもたちの承認欲求に応えられる授業を実施する」というのは眼目であった。


この記者発表会は「教育授業に精神科を」という主旨であった。無知から来る偏見をもたせないためにも、授業が有用であるのは理解できる。しかし、知識として教えることはできても「偏見」を取り除くことは難しい。なまじ精神科用語を知ったことで、ちょっと変わった同級生に対する「いじめ」につながる偏見が生徒の間に増えないか危惧する。
配布された教師用マニュアル(CD)を見たが、どのように精神疾患を教えるかはあっても、「偏見」について生徒にどう教えるか、がないのは残念である。

ちなみに海外で同様なプログラムが行われているかという質問には「ない」という主催社の回答であった。海外では障害者が日常生活に入り込んでいて、わが国ほどの「偏見」がないからであろう。
自身の「うつ病」については他人に語れても、「統合失調症」については語れないのはなぜだろう。

  • 2008年02月07日(木)11時34分

スタチン追加で心不全改善

「慢性心不全患者に対するスタチンの追加療法の可能性を検証」と題する標記のセミナーが大手町サンケイプラザ(東京)で開催された(主催:アストラゼネカ株式会社、塩野義製薬株式会社)。
AHA[米国心臓協会]で11月5日に発表のあったCORONA試験について、山崎 力氏(東京大学)が解説したものである。
結論を述べると、すでに至適薬剤での治療を受けている慢性心不全患者にスタチンを加えると効果があった。CORONA試験はそれなりの成果を見せたというものである(複合主要評価項目の心血管死、心筋梗塞、脳卒中の発現がプラセボ群に比べて8%減少。アテローム性動脈硬化性イベントの発症が16%抑制。入院数の減少など)。
この内容は、すぐ専門誌に掲載された由(Kjekshus J et al. N Engl J Med 357, 2007)。

慢性心不全治療薬については1980年代のα遮断薬からACE、β遮断薬、抗アルドステロン薬、ARBと続いているが、スタチンを追加することで予後が改善するのであれば朗報であろう。なお、β遮断薬については心不全悪化の恐れがあるので、現在開業医はあまり使いたがらず、専門医で50-60%使用かという話もあったが、その違いはどこに準拠するのであろう。

もともとスタチン系は脂質異常症治療に使われているが、高コレステロール血症患者が食事療法に加えてロスバスタチンを服用することで、アテローム性動脈硬化の進展が抑制できるというその適応拡大も、米国ではFDAにより承認された。

山崎氏はCORONA試験の結果発表に先立ち、慢性心不全の定義や大規模臨床試験の解説も行ったが、「ロサルタンがテモーミンに勝った試験」を示したり、主催者におもねない研究者としての明快な話し振りはスマートであった。

いずれにしてもLDLを下げHDLを上げれば心筋梗塞のリスクが減るわけなので、現在ある6種類のスタチン系薬剤でもストロングでLDLを下げてよいのではないかという氏の説は、そうかと思わされるが服薬中止が可能になる時期の検討などは考えられないことなのであろうか。

また、現状のガイドラインでは75歳以上はコレステロールを下げるメリットを認めていないらしいが、60歳代が心筋梗塞のピークとはいえ、長寿の国なのだから75歳以上を切り捨てているガイドラインはいかがなものかと思う。

ちなみに、死因としての「心不全」というあいまいな表現がなくなったのは、1995年からであるという話があったが、「不整脈」というものを死因としているのは、どうなのだろう。「不整脈」が原因で起きた何かを死因とすべきではと思考する。

  • 2007年12月07日(金)16時47分

ゴールドリボンがCOPDのシンボルマーク

「医療連携で進めよう!COPDの早期発見」と題するプレスセミナーが世界COPDデー日本委員会主催で11月6日に開催された(国際文化会館・東京)。
冒頭、当日の座長で、かつ世界COPDデー日本委員会の委員長である福地義之助氏が2002年から毎年1回開催されている世界COPDデーの活動と日本の組織図について概略を説明した。
世界COPDデーとは「世界でのCOPD社会啓発活動の推進を目的にGOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)により定められたもの」であるという話から始まってCOPDの新しい定義を氏は示した(京都での Asia-Pacific Society of Respirology 会議の一部として発表)。
定義等については5月のレポートで記したので詳細は省くが「非可逆的」とされていた気流制限についての用語が「完全には可逆的ではない」と、読み方によっては治癒を予感させるものに変わったのが特徴であろう。

米国NIHにおけるCOPDへの取り組みはアルツハイマー病に次ぐ力の入れ方であるという。日本においても死亡率が上昇し続けており2020年には死亡原因の第3位になることが予想されるというから知名度の低いこの疾患に対する啓蒙は重要である。

福地氏に続いて木田厚端氏、相澤久道氏、西村正治氏、今村聡氏が各々講演を行ったが、あまりの時間のなさにすべて駆け足であったのが惜しまれる。
特徴的な内容では「タンがからむ」のと「タンが多い」のは異なると言う話。また、骨粗鬆症と関連があるという論文(Vriza A et al. Osteoporosis Int 2007)紹介の話は興味を引かれるものであった。
後者についてはCOPDが骨密度低下に関与しているという話であるが、COPD患者が高齢者で運動能力が低下しているということからは、想像に難くない。ただ、海外ではCOPD患者の運動について積極的に推進しているということであるから骨密度についてはいずれ解消されるかもしれない。

本原稿タイトルのゴールドリボンについては、これは配布資料の中にあったピンバッジの説明書きから取ったものである。
リボンについては乳がん関連のピンクリボンが著明である。また、エイズ支援のレッドリボンもそれなりに知られている。

実はゴールドリボンについては、すでに「小児がんに関するあらゆる支援の世界共通のシンボルマーク」という既存のものがあるので、COPDに関連が深いGOLDから取ったとはいえ、同じ医療分野で同名はいかがなものであろうか(ちなみに小児がんのほうは製薬会社は1社も絡んでいないようである)。

  • 2007年11月12日(月)12時51分

口腔年齢

「お口の健康度を口腔年齢で」と題するセミナーが10月15日東京丸ビルで開催された(演者:大阪歯科大学・口腔衛生学 神原 正樹氏。主催P&G社)。

主題としては、口腔年齢と実年齢の差を自覚して口腔年齢が実年齢と一致するように歯の健康に留意しようというものである。
そこで、口腔年齢とは何かという用語の説明が始まるのであるが、単純に言うと虫歯のない健全な歯の本数を基準に歯周ポケットの深さなどを数値化して算出するものである。残念ながら治療済みであっても虫歯は健全とみなされないので、数値の変化に影響するのは歯茎・歯石、歯周ポケットなどでしかない。したがって、数値を良いものにしようとすると歯周の手入れが必須ということになる。

ちなみに8○2○運動であるが、現状は80歳で平均4.6本であり、60歳で17.8本となっている(健康日本21から)。

歯や歯周に対する健康意識の高まりから、現在の日本では年齢が低いほど虫歯が少なくなってきているという。とくに30歳以下での虫歯は減り続けており、健康日本21が目標としてあげている「2010年に12歳で虫歯1本」という数値は容易に達成されそうであるという。一因として親が子供に甘いものを与えるのを抑えているのかもしれないし、酸蝕症の原因とされるPHの低い清涼飲料水への子供の嗜好が減っているのかもしれない。

この12歳で虫歯が1本というのはすでに欧州などで達成されている国もあるそうだ。ただし、12歳で虫歯1本というのは良さそうであるが、口の健康という面から見ると多少の問題がある。つまり、虫歯がなくなるような環境であると当然のように子供は歯医者に行かなくなるし、歯痛を訴えることが少ないので母親が口に対して関心を示さなくなり、やがて今度は逆に虫歯が増えることにもなるからである。
口の健康は虫歯のことだけではないので、歯周などについても目を向けたこの口腔年齢を活用すべきであると神原氏が説くのは説得力がある。口腔年齢という用語の意識が広まれば開業医にとっても集客のいいツールになろう。

歯の検査・手入れについては年1回専門歯科で診査・予防処置をしてもらえればよいので、そのような歯科医を身近に見つけることが大事であると神原氏は加えた。年1回でよいというのは心強いが、問題は身近に治療ではないことをしてくれるそのような歯科があるかどうかである。

講演の後半は普通の歯ブラシと電動歯ブラシの使用効果の比較であった。簡単に言うと、普通の歯ブラシでは取れないとされている活動性バイオフィルムも取れ、プラークが取れるので出血の度合いも減るなど、最終的に口腔年齢が良くなるということで、電動ブラシを使いなさいということであった。歯磨き時間も普通の歯ブラシ20分が電動歯ブラシ2分で済むそうだ。

余談ながら、文字表現として「お口」というのはどうにもむずがゆい。口頭表現で「お口を開けてください」と言われるならまだしも、文字として見せられるとなんだこれはと感じる。もっとも口頭でも呼吸器科で「お胸をみせてください」とは言わないだろうが。

  • 2007年10月17日(水)16時53分

夕方老眼

9月3日第11回花王ヘルスケアフォーラムとして「現代視生活と目の過労」と題されるセミナーが開催された(東京・帝国ホテル)。演者は、高橋洋子(同志社大学 准教授)と後藤 英樹(鶴見大学 准教授)の2名である。

講演の主旨は、近年増えているVDT(visual display terminal)作業により、目の酷使が著しくストレスも増えドライアイにもなりやすいので、対応として蒸しタオルを当てるのが効果があるというものである。

高橋氏は、遠方視力と近方視力という表現で年齢に応じた視力の衰えを示した。20歳代は近くにも遠くにもピントが合うが、年齢を重ねるにつれ近くが見えなくなるというものである。40歳代では22cmより手前はピントが合わなくなり、これが60歳になると100cm以内が難しいと言う。つまり遠くを見ることに関しては20歳でも50歳でも同じだが、近くを見るのに差が出る。これが老眼である。

また、演者は近くを見る視力(近方視力)は、月曜日は良くて週末には低下し、一日のうちでも朝が一番良くて夕方になると低下するということから、この状態を夕方老眼と名づけた。そして氏は、その対処方法として蒸しタオルの効用を述べた。

一般には疲れ目には約60%の人間が目薬を使うが、その満足度は10%程度である。逆に蒸しタオルを使って温めるのは、一部煩雑なこともあり、実施は10%程度であるが満足度は約60%である。蒸しタオルを使うことで毛様体筋の緊張が改善されるので、夕方老眼も改善されると目を温めることの効用を、その満足度も含め高橋氏は説いた。

引き続き演台に上がった後藤氏もVDT作業後の蒸しタオル効果を、使用本数の比較を交えて解説した。1本よりも5本使ったほうが、ドライアイの改善度効果が30ポイント以上あったそうである。ともに40°Cで1本あたり3分間の使用である。

ドライアイに対する蒸しタオルの効果判定に、氏は「アコモドメーター(ピント調節測定器)」を使用し、またBUT(tear break-up time)で診断した。

蒸したタオルということでマイボーム腺が開口する効果もあったのであろう。ドライアイが改善した眼球数・割合はともに大きく改善していた。

このVDT作業での目の疲労実態と蒸しタオル使用による温め効果の実証について、後藤氏は10月の日本臨床眼科学会で発表する。

蒸しタオルの効果は、目に対してだけでなくとも気持ちよいという実感はあるものの、1本ならともかく5本を使い続けるというのは、残念ながら日常あまり現実的な行為とは思えない。

  • 2007年09月05日(水)17時25分
CGI提供サイト:Web Diary