今月のプレスセミナーから

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眼科セミナー②(検診における緑内障診断について)

 12日の午後は東京KKRホテルにおいて緑内障に関する定例セミナーが開催された。(ファイザー社主催)
 当日は「人間ドック・定期検診における緑内障診断の現状と課題」と題して東京大学眼科の相原 一氏が講演した。

 原発開放偶角緑内障や正常眼圧緑内障の視神経障害・視野障害は,基本的に進行性で非可逆的であり,自覚症状に乏しいので早期発見早期治療が重要であるという基本の話から始まって,眼底写真や視野障害の見え方例を写真や図を多用しての緑内障解説があった。

 疫学を含めた緑内障の知識に関する話は当然織り込まれたが,氏の話の中心はタイトルにもある「人間ドック・検診」であった。緑内障患者は約400万人と言われる。40歳以上の5%である。ただし自覚症状がほとんどないから,実際の緑内障でありながら未受診が86%にも上るようなことが多治見スタディ(2003)で明らかにされた。

 視野障害の治療はできなくても進行速度を遅れさせることは可能である。そのためにも早期発見が重要なのであるが,緑内障診断に必要な検査のうち,多くが眼科専門医ではなくコメディカルや一般眼科医に委ねられている。
 氏がここで一般眼科医についてあえて疑問を呈されたのは,たとえば眼圧について眼科医は「高眼圧」は分かるが正常眼圧の緑内障を見逃すことが多いからであり,眼底写真から判断する「視神経乳頭/網膜所見」についても判定のばらつきが見られるからである。
 眼底写真は有効な判断材料であるが,緑内障専門医が診れば精度が高い。

 機器として「視神経乳頭解析HRT」「網膜神経線維層解析OCT,GDxVcc」などもあり,これらを使えば専門医でなくても判定はできそうだが,これらはあくまでも補助診断装置としての利用である(とガイドラインにも明記されているそうである)。

 「検診における緑内障検出率」について相原氏は,人間ドック・企業検診など10数ヵ所の検査実例を表記したが,それを見ると,ある2つの機関では一次検査で陽性患者率が各々30.0%,1.1%だったのが二次検査で24.1%,47.6%になるなど,非常にばらつきがあった。(最終的に緑内障検出は3.6%,0.5%)眼科医の判定でこの差である。判定の困難さを如実に反映している。
 
 また自治体で緑内障検診を導入しているのは全国206自治体のうち65で,そのうち97%は眼底検査,37%は眼圧検査である。眼圧検査より眼底写真が有効な判断材料であることから,眼底検査率が高いのは望ましい状況と言える。しかし,現在緑内障検診を導入しておらず今後もその予定がないとする自治体が多いのは問題である。
 氏によれば,自治体の多くが現在は緑内障などより,メタボリックシンドロームに目が向いているからである。厚労省の指導不足であろう。
 相原氏の提言に,眼科検診を独立させたほうがよいとあるのはうなづけるものである。

  • 2007年07月27日(金)22時43分

眼科セミナー①(ドライアイについて)

 7月12日眼科に関するセミナーが相次いで開催されたので,その2件を紹介する。
午前中に「ドライアイ」についてのセミナーが東京日比谷パレスにある「ヴィラ・デ・マリアージュ」で開催された。主催者はコンタクトレンズメーカーのチバビジョンである。

 演者の横井則彦氏(京都府立医科大学)が,「目はなぜ乾く?涙のヒミツにせまる」と題して,現代生活の「3つのコン」(パソコン・エアコン・コンタクトレンズ)がドライアイ誘発の3大原因であると講義を始めた。
 「エアコンは室内空気を乾燥させるのでよくない」「通常1分間に15~20回のまばたきをすることで目の乾燥を防いでいるが,パソコン使用時は5~6回とまばたき回数が大幅に減少して目が乾燥する」「コンタクトレンズの場合は,レンズ装用時の涙層の変化が原因となる」
  コンタクトレンズは涙の表面に浮いている状態であるが,まばたきのない睡眠時は目の表面が潤わない。したがってコンタクトレンズが目の表面に貼り付いてしまい,目を傷つけるのである。寝るときはコンタクトレンズを外しましょうというのはそういうことである。
 そもそも涙液は油層と液層から成っているが,ドライアイは涙液の量的不足か質的異常が原因である。

 油分についての話は意外と知られていない。油分はマイボーム腺という穴から出て涙の蒸発を防ぐ役目をしている。水の表面を油の膜で覆うのである。毎回のまばたきでその作業が行われているが,このマイボーム腺が汚れで詰まると涙の広がりが不安定で油で覆われない部分の蒸発が増え,ドライアイになりやすい。

 また,マイボーム腺が原因ではなくてもコンタクトレンズそのものが原因で涙が目の表面に広がらないこともある。さらに,その他の原因として白目部分がたるんでもドライアイになるということが,最近注目されているそうである。

 まばたきの回数は,通常20回前後(1分間)で,読書時は10回,パソコンゲームなどをしていると5回程度だそうだが,子供は油層が厚いためドライアイは起きにくいという。

 いずれにしろドライアイは原因が目の表面の水分と油分の不足であるから,それを改善すればよいのであるが,前述のマイボーム腺機能不全に関しては現在いい治療法がないそうである。
 マイボーム腺に関しては,女性はとくに化粧で油の出口を塞ぎがちなので注意が必要である,と氏は説いた。

 2002年に厚労省がモニター注視作業1時間に対して10~15分の休憩が必要と示したそうであるが,毎日の業務でPC作業を行っている身には,なかなか難しいことである。

 横井氏の話で,PCでもデスクトップ型は目を大きく開けてモニターを見るのに対して,ノート型はうつむき加減に見るから,目の乾燥を防ぐには後者がいいという話は妙にうなづかされるものがあった。

 横井氏の講演に続いて米国チバビジョン研究開発部の松沢氏の話であったが,シリコンハイドロゲルヤプラズマコーティングの技術的な話題が多く,他社製品との比較の話は興味がもたれたが,あまりにも技術特化された内容のため,大勢出席していた女性美容関連のメディアには不向きであったのではなかろうか。

  • 2007年07月26日(木)13時23分

お産は100%安全ではないという認識を

6月13日「お産の安全神話と産科医療の取り巻く現状について」と題しての記者懇談会がパレスホテル(東京)で開催された(主催:日本産婦人科医会)

会長の寺尾俊彦氏より,総医師数は年々増加し27万人になっているが,産婦人科医師は年々減少し,1万人強程度になっている。と,産婦人科医師が激減している状況が述べられた。 
また,戦後間もない昭和30年代は,年間で3,095人が出産時に命を落として(妊産婦死亡率161.7:出産10万対)いたものが,現在は世界一安全なお産ができる国として認識されている(平成16年は年間49人,妊産婦死亡率4.3:出産10万対)と語り,「出産は安全だという世間の認識が定着したのだが,実はこの『安全神話』が医師にとってはつらいものである」と本日の主題に入った。
つまり,世間一般が出産は安全であるはずだという認識から,出産時の事故があると,すべて医療側の責任にする風潮があるからである。冒頭の産婦人科医師のなり手が激減しているのは,過重労働であることと訴訟のリスクだと氏は述べたが,とくに後者がその大きなきっかけであるとし,ふたつの事例「県立大野病院事件」と「横浜堀越病院事件」を示した。ともに民事ではなく刑事事件になったものである。

事件の詳細は省くが,それ以降,国内の産婦人科医療施設で分娩休止,産科病棟の縮小・休診が相次いだのである。後者の事件では看護師の分娩補助としての内診行為が刑事罰に問われた。罪の軽重はともかく,これについての法律「保健師助産婦看護師法」は構造的に杜撰であると氏は斬り捨てた。

主催者側の意図は,産婦人科医師たちの置かれている立場を理解して欲しいというものであり,重々理解はできたが,質疑応答時の「再発防止方法」「(事故があったときの)情報公開」「第三者機関の構成人員要素」という点では,メディア側とあまりかみ合わなかった。
同様な事件は小児科でも起きており,小児科医師も激減しているはずであるが,そちらのメディア対応はどうなっているのであろうか。

今回が第1回開催であり,事件のことが主題になると知らされていなかったメディア側の準備不足もあっただろう。ただ,この会は定期的に開催されるということであるから,今後も見守って行きたいところである。

医師の激減は深刻ではあるが,氏が語ったように,事件のせいで産婦人科医のなり手が減ったかどうかは疑問である。事件はともに昨年明るみになったものだからである。
少子化で産婦人科はコストベネフィットがあわないということも関係していないだろうか。

当日出席メディアは主催者予想を上回ったのだろう。補助席が出されるほどであったが,テーマがテーマであっただけに,辛らつなメディア側の質問も多かった。ただ,所属や名前を名乗らないという非礼さは,いかがなものかと思う。
プレス(メディア)としての常識も,その所属組織は教育すべきである。

  • 2007年06月18日(月)12時17分

角膜の再生医療

「角膜の再生医療の現在と未来」と題して東北大学眼科の西田氏による講演が,5日品川ストリングスホテルで開催された(主催:チバビジョン㈱)。

講演は,近視治療におけるレーザーや人工網膜の話から始まって,主題である再生医療へと進んだが,受精卵の一部であるES細胞を利用して難治性疾患を治す技術が,ビジネスに結びつくとどういう方向に進むか分からない脅威があるという話は,ヒトの遺伝子解析と同様にある意味恐ろしい問題である。世界の主な国でクローン研究についての禁止事項が厳格に決められていることも当然であろう。また,ES細胞を抽出するためには受精卵を破壊せねばならないという,倫理的な問題もある。

角膜移植のドナーについては,待機患者が平成16年度統計で4,661人。それに対してのドナーは882人である。ドナー不足を解消するためにも自家細胞を用いた再生医療が進んでいる。自家細胞を使う再生医療で著明なものは,やけどに対して当人の臀部あたりの皮膚を培養して障害部位にもってくるものがある。最大のメリットは拒絶反応がないことである。
角膜についても同様に自家細胞を応用する。ただし,両眼性疾患だと自家細胞は使えない。いいほうの目の輪部上皮を細胞源とするからである。健常なほうの眼の角膜輪部上皮細胞を培養してシートを作成し疾患眼に載せるのである。そうするとそこで正常な角膜再生が始まるのである。
では、両眼性疾患に対しては,どうするか。口腔粘膜を活用するのである。口腔粘膜にも幹細胞が存在するし自家細胞なので免疫不全問題も解消される。氏らはこの口腔粘膜上皮を使用して培養上皮細胞シートを作成し、それを疾患眼の角膜上皮再建用に移植して成功した。
ただし,現在は上皮細胞での成功であって,実質や内皮の再生に技術は及んでいない。ただ,これもin vitroで培養内皮細胞の分裂増殖が確認されているので,いずれ臨床応用されるであろう。

再生医療はそれを待ち望む人々にとって,大いなる福音となるが,前述したように誤ったビジネス方向に進むと恐ろしいことである。

  • 2007年06月11日(月)15時26分

COPDについてのセミナー

「喫煙習慣病COPD研究と治療の最前線」と題したCOPDに関するセミナーが5月11日に経団連会館(東京)にて開催された(主催:日本ベーリンガーインゲルハイム)。

同じ主催者によるCOPDに関する第5回目のセミナーであるが,今回は北海道大学の西村 正治氏が「北海道COPDコホート研究」と題して講演を行った。従来のCOPD概念が「慢性気管支炎」と「肺気腫」の組み合わせであったものが,現在のガイドラインでは「慢性気管支炎」は,あってもなくてもよいということになっているのだそうである。また,米国データ(1965年~1998年)ではあるが,冠動脈疾患,脳卒中など血管系死亡率が軒並み下がっているなかで,COPDの死亡率は逆に上昇しており,このままでは2020年に死亡原因の第3位になるとの論文データを西村氏は示した(もっとも,1,2位が虚血性疾患,脳血管障害と血管系であることは,1990年も2020年の予測でも変わっていない)。

日本におけるCOPDの死亡者数は1万人強である。疫学調査では500万人の患者がいるが治療を受けているのは21万人だそうである。その理由としては,喘息と誤診されることや,患者自身COPDの主症状である息切れを年齢のせいだから仕方がないと許容していることにある。さらに,COPD患者の肺機能低下を抑制するのは禁煙以外にないとされているが,禁煙できる患者が少ないということでもあろう。ちなみにCOPDでありながら喫煙をすると肺癌になる率が1.5倍upするそうである。

初期診断についても「咳」「喫煙」「40歳以上」「息切れ」などが確認要素であり,「高熱」「BMI」「ウエスト●cm以上」のように,一般人がチェックできる明確な基準がないというのも深刻さを感じさせない理由かもしれない。確定診断については,スパイロメトリーを使う。1秒量と努力肺活量から気流閉塞の有無やCOPDが確認できる。
この肺機能検査でスパイロメトリーを使うのは良く知られているが,努力肺活量の検査はきつい。健康診断時も「息を吸って,吐いて吐いて吐いて,もっと吐いて,我慢して,もっと吐いて」とやっているが,くらくらする。どこまでやらせるんだと怒っている老人を見かけたこともあるが,その気持ちは分かる。

1秒率が70%以上か以下かというCOPD判定に必要ではあろうが,簡便な検査法が望まれる。
COPDの重症度は5段階に分けられるが,治療の中心は気管支拡張薬である。

本題の「北海道COPDコホート研究」で,COPD病期別の気流制限と肺気腫の関係図が示されたが,その図からCOPDには「肺気腫優位」と「気道病変優位」の2種類あることが分かった。そして「肺気腫優位」の患者は「気道病変優位」の患者に比べてQOLが悪くBMIも小さいことも示された。
三次元CTによる細気管支病変部位の画像は鮮やかであり,また,現在は氏の研究室独自のものかもしれないが,細気管支病変部位を6次分枝まで追って画像化できているのは診断に大いに役立つ技術進歩であろう。

質疑応答時に「やせとCOPD」「神経性食欲不振と肺気腫」について,海外研究論文があると西村氏が語られたのは興味を引かれたところである。

「北海道COPDコホート研究」は現在4年目である。患者数は約300名と限られているが,貴重な研究である。もっとも主目的である「新しい病型分類」よりも,副目的である「病型決定因子の特定」のほうが患者予備軍にはありがたいような気もする。

  • 2007年05月18日(金)12時35分

突然,睡魔に襲われる「ナルコレプシー」の実態

ナルコレプシーについて標記のセミナーが4月17日に開催された(主催:アルフレッサファーマ株式会社,田辺製薬株式会社)。
ナルコレプシーと言えば,亡くなった直木賞作家の色川 武大(阿佐田 哲也)で有名であるが,彼については突然眠るということしか知識はなかった。つまり「居眠りするとは考えられない状況(試験中・商談中・食事中など)で突然眠る」というものである。

セミナーではこの病気について,内山 真氏(日本大学精神医学講座)の講演と,実際の患者でもあり日本ナルコレプシー協会理事長でもある白倉 昌夫氏の講演があった。

白倉氏の実体験談は興味深いものであったが,薬により長年症状が抑えられているとのことで,不謹慎ながら外見からの情報は得られなかった。つまり症状が出ない限りはまったく健常人と同じである。であるから,突然眠るという症状が出現したときは,この病気を知らない人が見ると「なまけ病」などと誤解するのである。薬の成果で車の運転も支障がなく氏は過ごしているそうである。

引き続いた内山氏の講演内容を概略すると,ナルコレプシーの大きな症状は「日中の過度の眠気と居眠り」「情動脱力発作」「睡眠麻痺」「入眠時幻覚」の4つであり,病気としての診断基準は「日中の過度の眠気と居眠り」「情動脱力発作」のふたつである。

前者については,一般人でも眠くて仕方がない状況は多々あり,診断は難しいかもしれないが「情動脱力発作」が併発することで診断は容易である。
この「情動脱力発作」とは「笑う,驚く」などの強い情動で急にへなへなと力が抜ける状態になるというものであるが,恐ろしいのはそのときも意識は清明であることである。なぜ恐ろしいかというと,万一の発作が駅のホームで起こり,そのまま線路に転落などしたらと思うからである。意識は清明なのに身体が動かないのである。

また,前述の4症状のうち「入眠時幻覚」(布団から蛇が出てきて首に巻きついた,枕もとのぬいぐるみが動いたという患者の話を例として紹介)のことなどから,病気についての認知度の低さも加味されて「精神科・神経科」領域の受診が多いようであるが,鑑別診断が適切でないと「なまけ病」という評価や,幻覚などから別の「精神障害」と診断されてしまう恐れがある。
患者は10代での発症が多く,多感な14~16歳にピークがみられるのでかれらにとって,そのスティグマは耐え難いものであろう。

簡易な鑑別診断方法として睡眠潜時の話があった。睡眠潜時とは,眠るために横になってから,実際に睡眠状態に陥る時間のことである。通常,眠りにつくときは夢を見ないノンレム睡眠(平均15分~20分)を経て,その後約90分でレム睡眠に入るのであるが,ナルコレプシー患者は,横になってすぐ(5分以内)にレム睡眠になるという。

治療薬としては,レム睡眠を抑える三環系抗うつ薬やSSRI,SNRIなどが使われるし,日中の過度の眠気に対しては覚醒作用をもつ薬が処方される。
今回のセミナーで紹介された「モディオダール」というのは,「日中の過度の眠気」に対する薬剤である(情動脱力発作への適応はない)。すでに米国では夜間勤務が必須の病院当直医師や警備の人間にも使われているようである。

しかし,10代での発症が多いという現実に対して,小児に対する適応がないことは残念としか言えない。また,強力な覚醒作用の面から誤った使われ方がされないかも危惧するところである。

余談ながら副作用項目に不眠とあったのは何だろう。

  • 2007年04月20日(金)15時07分

閉塞性動脈硬化症(ASO)の新しいガイドラインと早期発見の重要性

3月14日国際フォーラム(東京)において,標題のセミナーが開催された(主催:大塚製薬)。この閉塞性動脈硬化症:ASO(海外では末梢動脈疾患:PADと呼ばれる)は,動脈硬化によって足の動脈の内腔が狭くなり足の末梢に血液が行き渡らなくなり,足先のしびれから,歩行時に足の痛む間欠性跛行を経て,最終的には潰瘍や壊死になるという恐ろしい病気である。

講演では,名古屋大学の古森公浩氏がASOの重症度分類であるFontaine分類(I度からIV度)と,実際に狭窄している下肢の血管造影図を示し,IV度にもなると切断に至るものもあると実写真を示した。切断写真は当然ながら痛ましい。
また,名古屋大学血管外科での「ASO患者術前の合併症頻度」が示されたが,高血圧,糖尿病,IHDは当然のこととして,喫煙が第一位であったのは,それを合併症とすることともあわせて驚きであった。

ASOの簡単な診断方法として,足関節収縮期血圧を上腕収縮期血圧で除するABI(ankle brachial systolic pressure index)が示された。0.9以下であると何らかの閉塞性病変が疑われるというものである。

症状として一般人が自覚しやすいのはFontaine分類のII度にあたる間欠性跛行であろう。それは,歩いているとふくらはぎ部分が痛くなるが,しばらく休むと歩行可能になるレベルである。同じような痛みでも,かがんで休むと楽になるというのは脊柱管狭窄症によるものがあるので注意が必要である。

古森氏についでコロラド大学のWR Hiatt氏が,今回のメインテーマであるTASC II(Trans atlantic inter-society consensus II)について解説した。2000年に欧米を中心に定められた最初の診断・治療基準であるTASCの改訂版である。
改定の特徴は,推奨グレードA~Cについての根拠が簡潔に示されプライマリケア医にもわかりやすくなった点であり,とくに間欠性跛行の初期治療として運動療法と薬物療法が推奨されている点である。患者の70-80%はこの間欠性跛行での受診が多いことから,その指針は重要であろう。
運動療法としては,トレッドミルやトラック歩行を週3回3カ月行う。
薬物療法は,シロスタゾール,ナフチドロフリルなどが推奨されている。
その他に選択肢としての血行再建がある。

何事も早期発見・早期治療であろうが,その点からすれば初期I度(しびれ感・冷感)の患者への指針がなかったのは残念であった。

  • 2007年03月23日(金)10時53分

「初期肺がん治療」に関するセミナー

3月12日東京女子医大において,「初期肺がん早期治療の重要性」と題するセミナーが開催された(演者:同大学呼吸器センター外科 村杉 雅秀氏)。

肺がんは日本でのがん死亡率の1位を占めており,また,がん患者の死亡数で前年比+1,000人は男性肺がんだけであるという。さらに,肺がんについては,女性患者の罹患数もいずれ乳癌に並ぶであろうとのことであった。

近年,国内でも禁煙運動が推進されて久しいが,トータルとしての患者数がさらに増え続けるであろうことが示されたのは,いかなる予測に基づいてのことであろうか聞きそびれたのは残念である。

周知のことではあるが,何より肺がん(特に扁平上皮がん)の主原因はたばこであり,非喫煙者に対して喫煙者は20倍のリスクを負うと解説された。

また,肺がん発生率とたばこ消費量の関係はほぼ一致しているということで,色分けされた世界地図も示されたが,そこでは北米も最大の関係を示していた。ただ,その調査年度の明記がなかったので,近年の禁煙運動の推進力を思うに,北米の色は変わっているのではないかと思われる。逆に変わっていなければあの国を挙げての(と思われる)禁煙運動は何なのかということになる。

肺組織から発生したがんと,他の臓器から肺に転移してきたがんは別のものであり,前者は「原発性肺がん」で後者は「転移性肺腫瘍」と呼び治療法も異なるという話題から,肺がん検診は胸部CTが妥当でありX線検査の比ではないことを実写真をもって示された。
過去の集団検診で行っていた間接撮影はいったい何であったのだろう。

演者は外科医なので手術の話も多かったが,胸腔鏡・鏡視下手術の映像は開胸手術と比較して創の小ささや術後回復のことを思うと今後は主流になることを予測させた。もちろん施療側の技術が伴ってのことである。

専門的な用語も駆使されてのセミナーではあったが,使用スライド・動画の多さからは一般に公開しても十分有意義な内容であったであろう。

「自覚症状で発見された肺がんは,すでにある程度進行していることが多い」という話は恐ろしいが,喫煙者にはその言葉は抑止力にはならないのだと思うとさびしさを覚える。

しかし,「喫煙は肺気腫を悪化させる危険性を高めます」「脳卒中の危険性を高めます」と記してでもタバコは売るべきものなのであろうか。日ごろ副流煙に悩まされている身にはセミナーで使われた「タバコの煙で汚れた肺」の写真でもパッケージに使ってくれればと感じた次第である。

  • 2007年03月20日(火)22時30分

「痔」治療に関するセミナー

3月1日大手町ファーストスクエア(東京)において,ジョンソン&ジョンソン㈱主催で標記内容のセミナーが開催された(演者:寺元龍生氏,黒川彰夫氏,辻仲康伸氏)。

基本的な「痔とは肛門の病気の総称である」という話から,痔に関する一般の誤解を説く解説と,多くの実写真が示された。

指を入れても意外と分からないという専門医師の話や,「痔」の治療には程度に応じて経口,軟膏,注射,ゴム輪結紮,手術,PPHなどがあるという話は,「痔は手術」と決め込んでいる向きには勉強になった。

今回はPPH(procedure for prolapse and hemorrhoids:環状自動縫合)という脱肛手術法についての説明が主であった。III度以上の重い症状で全周性のものが適応である。痔核そのものの切除でないので結紮切除法に比べて侵襲が低減でき,より短期での退院が可能だそうである。
この術式は2005年に先進医療に認定されたが,患者負担は約20万円である。

演者が繰り返していたが,本当に適応があるかどうかを確認することが,この治療を受ける人間には重要である(適応,不適応については上記以外にも条件がある)。

病院を訪れる患者の多くは「痔」と自己判断して来ており,かつ「痔なら手術」と勘違いしていることが多々あるそうである。
正確な鑑別診断とインフォームドコンセントのない病院は要注意であろう。

余談ながら,診察時の体位がシムスではなく砕石位がよいというのは,理屈では理解できてもやはり患者には恥ずかしいであろうと思う。

  • 2007年03月05日(月)18時36分

仮面高血圧セミナー:サントリー(株),オムロン ヘルスケア(株)共催

2月6日ニューオータニ(東京)において,サントリー(株),オムロンヘルスケア(株)共催で標題のセミナーが開催された。
講演として「メタボリックシンドロームにおける仮面高血圧の意義」というテーマで自治医科大学の刈尾教授が各高血圧の定義とその違いから,「仮面高血圧」の3タイプまでを述べ,また,疾患のない人間がどういうときに血圧が上がるかという例を示した。

面白かったのは,睡眠時間が7-8時間の人間に比較して5時間以下の人間が高血圧になる可能性は2倍になるというGangwischの発表や,高血圧の累積発症率について投薬治療群とプラセボ群の比較をした際,投薬を2年で止めてもその後(4年後)の両者の差が少ない,つまり投薬中止後も薬の影響が持続している(?)というJuliusの論文紹介であった。

なので,主催者のサントリーが新発売の「胡麻麦茶」の降圧効果を示したグラフで,飲むのを止めるとリバウンドがひどいと言ったのと少し矛盾するものである。

蛇足ながら,その折り,「胡麻麦茶を飲むのを止めるとリバウンドがひどいから飲み続けなければいけない」という表現があったが,その表現は一般消費者には逆の効果しかもたらさないであろう。
オムロンヘルスケアは上腕式血圧計のデモンストレーションであった。

  • 2007年02月07日(水)15時39分
CGI提供サイト:Web Diary